・「FDE思考」という言葉の意味を知りたい
・AIを個人では使っているが、部署の仕事は変わっていない
・エンジニアではないが、自分の業務をAIで変えたい
「FDE思考」は、PIVOT公式チャンネルが2026年10月7日に公開した対談で注目された言葉です。div提供の番組で、エンジニアの中島聡氏とdiv CEOの石原圭氏が語っています。
FDE思考とは、業務をよく知る人がエンジニアの発想を持ち、AIで業務の流れそのものを変える考え方です。出発点は「AIに何を任せるか」ではなく「何を人に残すか」です。本記事では、FDEとの違い、個人の効率化で止まる理由、4つの手順、経理の事例、非エンジニアに要る基礎、部署へ広げる段階を、2026年10月時点の情報で整理します。
この記事のゴール(読了目安 約8分)
FDE思考の意味とFDEとの違いを説明でき、自分の業務で人に残す点を決めて、小さく作るところから始められるようになる。
FDE思考とは
業務を知る人がエンジニアの発想を持つ
FDE思考は、現場の業務を知っている人が、エンジニアのように「仕組みで解く」発想を持つことを指します。対談で石原氏は、コードをAIが書く時代になったので、現場の側からエンジニアの側へ入っていく見方もあると説明しています。業務の理解とエンジニアの発想を、1人の中で掛け合わせるのが核です。
FDEとは向きが逆
FDE(Forward Deployed Engineer)は、エンジニアが顧客の現場に入り、課題の定義から実装までを担う職種です。職種そのものは別記事で解説しています。FDEがエンジニアから現場へ向かうのに対し、FDE思考は現場の人がエンジニアの発想へ向かいます。職種ではなく、誰でも持てる考え方として語られている点が、FDEとの違いです。

AI活用が個人で止まる理由
帝国データバンクが2026年3月に約1万社から回答を得た調査では、生成AIを業務で活用している企業は34.5%でした。主な活用業務は「文章の作成・要約・校正」が45.1%で最も多く、「情報収集」21.8%、「企画立案時のアイデア出し」11.0%が続きます。総務省の令和8年版情報通信白書でも、生成AIの活用方針を定めた日本企業は68.9%と、前年度の49.7%から増えました。
使う会社は増えた一方で、使い道は1人の作業の手助けが中心です。中島氏は動画内で、企画・デザイン・実装・テストと役割が分かれた組織のまま各自がAIを使っても、効率化は1〜2割程度にとどまると述べています。自分の仕事が要らないとは誰も言い出せないため、役割の分け方そのものは、誰かが変えない限り残るという見立てです。

現場と作る側の分断
石原氏は、業務の現場とシステムを作る側が分かれてきたことを、AIが業務の変革につながらない理由に挙げています。両者が持っているものは次のとおりです。
- 現場: 何に困り、何が使いにくいかを知っている。ITやセキュリティの知識が無く、作る発想が出にくい
- 作る側: 要件として降りてきたものは作れる。なぜそれが要るのかは見えにくい
- FDE思考の人: 困りごとを知ったまま、仕組みで解く案を自分で出せる
外部に頼んでも既製のサービスを組み合わせても、「なぜ」を知る人と「どう作るか」を知る人が別なら、この分断は残ります。
何を人に残すかから決める
経理の業務をどう変えるかという場面で、中島氏は、承認のように人が必ず関わらなければならない点を先に見つけ、それ以外をすべて自動にすると答えています。請求書と領収書の数字が合っているかは機械で確かめられますが、そのお金を使うことが会社として正しいかは人が見る、という分け方です。
続けて対談では、「人がやるしかない」と思った工程を疑う視点も示されています。
- 仕組みを替えれば済むか: 今のシステムだから人が見ているだけで、AIが読める形やAPIで扱える形にすれば済まないか
- 二重の確認は要るか: 人どうしのダブルチェックの片方を、AIに任せられないか
- 承認は本当に人か: 承認の手順のうち、人の判断が要るのはどこか
人に残す点を先に決め、残りを広げていく順番が、FDE思考の中心です。
FDE思考の4つの手順
動画で石原氏が説明した進め方は、自分の業務に置き換えると4段です。
- 聞く: 担当者に業務の中身を聞く。自分の業務なら、自分に聞く
- 書き出す: 話した内容を音声で書き起こし、流れ図にして関係者と同じものを見る
- 人に残す点を決める: 判断と承認など、人が関わる点に印を付ける
- 作って直す: その場で動くものを作って使ってもらい、使いにくい所を直す
石原氏によると、この流れのうちエンジニアの力が要るのは作る部分で、大半は業務の理解と相手とのやり取りです。作る部分の負担はAIで大きく下がったので、業務を知る人は、残りの大半をすでに持っていることになります。

経理の事例で見る
動画の中で石原氏が紹介したのは、同社がある会社の経理業務に提案した1社の事例です。請求書の照合から会計ソフトへの取り込みまでに、およそ130時間かかっていたといいます(何か月分の時間かは動画内で示されていません)。
承認者には検査の結果だけが届き、人に残ったのは判断と承認です。講座を提供する会社が語った1社の事例で、他社で同じ幅になるとは限りません。

非エンジニアにも要る基礎
石原氏は、プログラミングの知識がまったく無くても問題ない、とは今は言えないと話しています。基本やセキュリティを知らないと、AIが書いたものが動いても中で何が起きているか分からないためです。
中島氏も、今のAIは非エンジニアが「システムを作って」と頼んだとき、押さえるべき所を押さえてくれないと指摘し、AIが何をしても壊れない枠「ハーネス」を自ら作っていると語っています。AIを仕組みで安定させる考え方は、別記事で解説しています。
自社でも、検索と閲覧の数字を一画面にまとめるダッシュボードを作り、支援先にもつなぎ始めました。社内で課題に挙がったのは見た目ではなく、APIまわりのセキュリティとデータベースの構築です。自分用は作れても、人に渡す段で基礎が問われます。
1回だけ使うソフトの価値
中島氏は、AIで開発費が下がることの本当の価値は、費用の削減ではないと述べています。1人しか使わない、1回しか使わないソフトを、ほぼ費用をかけずに作れることだというのです。動画では、5人でキャンプに行くときの持ち物を調整するアプリを20分で作り、使い終えたら捨てる例が挙がっています。
業務に置き換えると、次のような使い方になります(例)。
- 月1回の突き合わせ: 2つの表の差分を出すだけの小さな画面
- 社内行事の受付: 参加者と持ち物を集め、終わったら閉じる
- 引き継ぎの点検: 異動の前に確認項目を順に埋める
作って捨ててよいと思えると、試せる数が増えます。
個人から部署へ広げる
動画の終盤では、最初は自分用の小さな自作でよく、その発想を部署全体に広げていけば部署も組織も変わる、という話が出ています。段階ごとの目安は次のとおりです。
部署から先は役割の分け方に手を入れるため、上の立場の人の関与が欠かせません。組織としてAI活用を進める体制は、別記事で解説しています。
【プロの視点】人に残す理由を分ける
AIによる業務改善は、「AIに何を任せられるか」の一覧づくりから始まりがちです。一覧から入ると今の手順にAIを差し込む形になり、効率化は1工程ずつで止まります。
見るべきは、人に残っている工程の理由が「判断」か「つなぎ」かです。判断は、支出の妥当性や例外の扱いのように、責任を伴って決めること。つなぎは、転記や照合、確認のための往復のように、システム同士がつながっていないから人が間を運んでいる作業です。
経理の事例でも、照合や部署への確認は判断ではなく、情報が別々の場所にあったから人がやっていた作業です。つなぎは、仕組みを替えれば消せます。対談の「本当に人でないとダメか」という問いは、この見分けのことだと読めます。
明日やる最初の一歩は、自分の業務の手作業を10行書き出し、各行に「判断」か「つなぎ」の印を付けることです。
【waltsu視点】作った人の手元で止めない
AIで仕組みを作る人ほど、周りが追いつけず属人化していく。この悩みが社内で出ています。FDE思考で自分用の道具を作れるようになると、同じことが起きます。作った本人は楽になりますが、使い方を知っているのは本人だけです。異動や休みのときに止まり、部署の仕事の流れは変わりません。
waltsuが軸にしているのは、時短ではなく試行回数です。ここでいう試行は、作った回数ではありません。他の人に使われ、直された回数が試行回数です。使う人が増えるほど、本人が気づかなかった使いにくさが見つかります。
だから自作は、隣の人が説明なしで使える形まで作って1回と数えます。使い方を1枚にまとめ、どこを人が判断するかを書いておく。それだけで、個人の工夫が部署の仕組みに近づきます。
明日やる最初の一歩は、自分用に作ったものの使い方を1枚に書き、隣の人に1回使ってもらうことです。
よくある質問
FDE思考とFDEの違いは?
FDEはエンジニアが顧客の現場に入る職種で、FDE思考は現場の人がエンジニアの発想を持つ考え方です。向きが逆で、FDE思考は職種を問いません。
プログラミングは必要?
コードを書く作業はAIに任せられますが、コンピュータの基本とセキュリティの知識は要ります。動画内でも、知識がまったく無くてよいとは言えないという立場が示されています。
最初に何を作ればいい?
自分しか使わない、1回で終わる道具で十分です。月1回の突き合わせのように、手順が決まっている作業から始めると作りやすくなります。
どの業務から始めればいい?
判断が少なく、転記や照合などのつなぎが多い業務です。人に残す点がはっきりしているほど、残りを任せやすくなります。
会社の許可は必要?
社内のデータを扱うなら、使ってよいAIサービスと情報の扱いを社内のルールで確認してください。人に渡す段階では、権限とデータの置き場所も決めておきます。
この記事のポイント
・FDE思考は、業務を知る人がエンジニアの発想を持ち、仕組みで業務を変える考え方
・出発点は、AIに任せることではなく人に残す点を決めること
・人に残る工程は「判断」と「つなぎ」に分け、つなぎは仕組みで消す
・自作は隣の人が使える形まで作り、部署へ広げる
まとめ
FDE思考は、FDEという職種とは逆向きに、現場の業務を知る人がエンジニアの発想を持つ考え方です。AIを使う会社は増えましたが、使い道が1人の作業の手助けにとどまる限り、業務の流れは変わりません。
聞く、書き出す、人に残す点を決める、作って直す。この4段を自分の業務で1回回し、作ったものを隣の人に渡すところから始められます。業務のどこを人に残すかで迷う場面が出てきたら、waltsuが業務の書き出しから仕組みづくりまでご支援します。
