・AX推進の進め方を知りたい
・AI活用が個人止まりで悩む
・推進体制やKPIを設計したい
生成AIの普及によって、多くの企業がAI活用を始めています。しかし、「ChatGPTを導入した」「AI研修を実施した」「一部の業務で使っている」という状態から、なかなか先へ進めない企業も少なくありません。
企業全体でAIを活用し、業務や組織そのものを変えていく取り組みが「AX推進」です。先に結論をお伝えすると、AX推進で重要なのはAIツールを全社導入することではありません。現在の業務を整理し、どこをAIに任せ、どこを人が判断し、仕事そのものをどう作り変えるのかまで設計することです。
本記事では、AX推進の意味と必要性、AI活用との違い、目指す3つの段階、進め方の7ステップ、推進体制、人材育成、KPI、失敗しやすいポイントまで解説します。
この記事のゴール(読了目安 約12分)
個人のAI活用から組織的なAXへ進めるための、推進ステップ・体制・KPIを設計でき、自社が今どの段階にいるのかを判断できるようになる。
AX推進とは
AXとは、AI Transformation(AIトランスフォーメーション)の略で、AIを活用して業務プロセス、意思決定、商品・サービス、顧客体験、組織、ビジネスモデルなどを変革する取り組みを指します。
AX推進とは、この変革を一部の社員によるAI活用で終わらせず、組織として計画的に進めることです。
たとえば従来は、人が情報を集め、分析し、資料を作り、判断し、実行していました。AXでは、AIが情報を収集・整理・分析し、複数案を作成し、人が判断し、AIと人が実行し、結果をAIが分析して、人が次の判断をする。業務プロセスそのものを変えていきます。
なお、AXという概念自体(DXとの違い・メリットなど)の詳細は、別記事で解説しています。本記事は「どう推進するか」の実務に絞って進めます。
【関連記事】AXとは?DXとの違い・メリット・企業がAI変革を進める方法をわかりやすく解説
なぜAX推進が必要なのか
「社員が個人でAIを使えているなら、それでいいのでは」と思うかもしれません。組織的な推進が必要な理由は4つあります。
個人のAI活用には限界がある
社員それぞれがChatGPTを使うだけでも、一定の効率化はできます。しかし、プロンプトが属人化する、部署によって活用度が違う、同じ作業を各自でバラバラにAI化する、成果を会社として把握できない、情報管理ルールが曖昧、という問題が起こりやすくなります。個人のAI活用から「会社としてAIをどう使うか」へ進める必要があります。
AIエージェントが業務を実行できる
生成AIは「質問→回答」だけでなく、目標を与えると必要な作業を考え、情報を調べ、ツールを使い、業務を実行する方向へ進化しています。「人の仕事をAIで補助する」から「AIを業務プロセスの中に組み込む」へ。この転換は、個人の工夫ではなく組織の設計が必要な領域です。
人手不足への対応が必要になっている
情報収集、資料作成、集計、分析、定型対応をAIへ移せれば、人はより重要な業務へ時間を使えます。限られた人員で事業を成長させるための現実的な打ち手です。
AIを使える企業と差が広がる
AIによって、調査→企画→制作→実行→分析→改善までの速度を上げられます。同じ半年でも、3回しか改善できない企業と30回改善できる企業では、大きな差が生まれる可能性があります。
AI活用とAX推進の違い
両者の違いは、レポート業務を例にすると分かりやすくなります。
現在、社員が毎週3時間かけてレポートを作成しているとします。AI活用は、AIでレポート作成を30分に短縮すること。作業は速くなりますが、仕事の形は変わりません。
AXは、AIが常時データを分析し、重要な変化だけを検知し、改善案を自動作成し、必要なときだけ人が判断する形に変えること。「レポートを作って会議で見る」という仕事のやり方そのものが変わります。
つまり、AI活用は「作業を速くする」、AXは「仕事のやり方を変える」。AX推進とは、前者で止まらず後者まで組織的に進めることです。
AX推進で目指す3つの段階

AXは一足飛びには進みません。3つの段階で捉えてください。
個人のAI活用
最初の段階です。社員が文章作成、要約、情報整理、アイデア出し、資料作成などにAIを使います。多くの企業は今この段階にいます。
業務のAI化
次に、特定業務そのものをAIで効率化します。問い合わせをAIが分類し回答案を作成して担当者が確認する、広告データをAIが取得・分析して改善案を生成する、といった業務単位での仕組み化です。
業務プロセスの再設計
最終段階では、「現在の仕事をAI化する」だけでなく、「AIが使えるなら仕事をどう作り直すか」を考えます。ここまで進んで、本格的なAXにつながります。自社が今どの段階か、次にどの業務をどの段階へ進めるかを見立てることが、推進計画の出発点です。
AX推進の7ステップ
具体的な進め方を7ステップで解説します。

AXの目的を決める
「AIを導入する」ことを目的にしないこと。営業生産性の向上、制作時間の短縮、問い合わせ対応の改善、人手不足の解消など、経営・事業上の課題から始めます。
業務を洗い出す
現在の業務を分解します。マーケティングなら、市場調査→企画→制作→広告配信→レポート→分析→改善。そのうえで、時間がかかっている・繰り返し発生する・大量の情報を扱う・ルール化しやすい・属人化している業務を探します。
AI活用候補に優先順位をつける
すべての業務を一度にAI化しようとせず、効果の大きさ×導入のしやすさの2軸で整理します。「効果が大きく、導入しやすい」業務から始め、成果が出やすいところで最初の成功を作ります。
AIと人の役割を決める
業務ごとに「AIにどこまで任せるか」を決めます。情報収集・要約・分類・分析・案出し・下書き・定型業務はAI。目的設定・顧客理解・例外判断・意思決定・品質管理・最終承認は人。この分担を明文化します。人に残す範囲を決める判断軸としては、AI倫理の原則(人間中心・人による監督・責任の明確化)が参考になります。
小さく検証する
いきなり全社導入せず、営業部の1チーム、マーケティングの1業務など対象を限定して検証します。確認するのは、時間削減、品質維持、ミスの増減、現場が使えるか、コストに見合うか、の5点です。
業務に組み込む
検証で成果が出たら、個人の使い方から会社の業務プロセスへ組み込みます。「担当者が自分でChatGPTを開いてプロンプトを書く」ではなく、業務システムがデータを取得→AIが処理→結果を担当者へ提示→担当者が確認、という仕組みにする。ここが「個人活用」と「AX」の分水嶺です。
全社展開・改善する
成果が出たユースケースを横展開します。同時に、利用状況・費用・品質・リスク・成果を継続的に確認し、発見→検証→実装→計測→改善を繰り返します。
AX推進の体制
AXはIT部門だけのプロジェクトにすると失敗します。5つの役割で体制を設計してください。

経営層
AXの目的、投資判断、優先順位、全社方針を決めます。業務の作り変えには部門をまたぐ判断が必要になるため、経営層の関与は必須です。
AX推進チーム
AI活用の企画、ユースケース発掘、ツール選定、実証実験、全社展開、効果測定を担います。
現場部門
実際の業務を最も理解しているのは現場です。「推進部門がAIを導入してあげる」ではなく、現場+推進部門で業務を設計する体制にします。
IT・セキュリティ・法務
情報セキュリティ、個人情報、著作権、契約、システム連携を確認します。
現場のAI推進人材
各部署に「AIに詳しい人」を配置する方法も有効です。本部だけですべてをAI化するのではなく、現場からユースケースが生まれる仕組みを作ります。
AX推進に必要な人材育成
AX推進では、全社員をAIエンジニアにする必要はありません。役割ごとに必要なスキルを分けます。
全社員
生成AIの基本、正しい使い方、情報管理、ファクトチェック。全員に必要な基礎リテラシーです。
現場推進者
業務整理、プロンプト設計、AIツールの使い分け、業務自動化、AIエージェントの活用。現場でユースケースを作る実践スキルです。
AX推進担当
ユースケース設計、業務改革、AI技術・データの理解、プロジェクト管理。推進の中核スキルです。
経営・管理職
AIの可能性とリスク、投資判断、組織設計。意思決定のためのスキルです。
重要なのは、研修だけで終わらせないこと。学ぶ→業務で使う→成果を共有するまでを設計して、初めて人材育成がAXにつながります。
AX推進とAIガバナンス
AXを進めるほど、AIガバナンスも重要になります。AI利用が増えれば、機密情報、個人情報、著作権、ハルシネーション、バイアス、セキュリティのリスクも増えるためです。
最低限、利用できるAI、入力禁止情報、利用禁止用途、人による確認、公開前承認、問題発生時の報告先を決めます。ただし、「危険だから禁止する」だけではAXは進みません。リスクに応じて利用可・条件付き・禁止を分け、「安全に使える範囲」を広げていくことが、推進とガバナンスを両立させる考え方です。ガバナンス体制の作り方は、別記事で詳しく解説しています。
【関連記事】AIガバナンスとは?必要性・リスク・企業が構築する方法をわかりやすく解説
AX推進のKPI
AX推進のKPIを「ChatGPTの利用人数」だけにしないでください。5つの分類で設計します。以下の表にまとめます。
利用指標は入口にすぎません。最終的に見るべきは、「AIをどれだけ使ったか」ではなく「AIによって事業や業務がどれだけ変わったか」です。
AX推進でよくある失敗
つまずきやすいパターンを6つ挙げます。
- ツール導入から始める: ツールを導入してから「何に使おう?」と考える。順番は課題→業務→AI活用方法→ツール
- PoCだけ増える: 実験は増えるが本番業務に組み込まれない。PoC段階から「成功したらどう業務へ組み込むか」まで考える
- 研修だけで終わる: 研修→業務課題の発見→ユースケース作成→実装までつなげる
- 推進部門だけで進める: AIに詳しい人だけで決めると現場で使われない。現場を巻き込む
- 全社一斉に進める: コスト・調整・現場負担が膨らむ。小さく成功事例を作って横展開する
- 時間削減だけを見る: 「3時間が30分になった」で終わらせず、削減した時間を企画・分析・改善・顧客対応に使えているかを見る
対象になりやすい業務
AX推進の対象になりやすい業務を部門別に整理します。以下の表にまとめます。
最初の対象は、自社の事業成果に直結する部門から選ぶのが定石です。マーケティング領域の具体的な進め方は、AI活用の各記事で解説しています。
【関連記事】AIマーケティングとは?活用方法・事例・ツールを解説
【プロの視点】AI導入でなく業務改革
AX推進でありがちなのが、「現在の業務にAIを追加する」という考え方です。人が資料を作る→AIに資料を作らせる。これだけでは、単純な効率化にとどまります。
本来考えるべきなのは、「その資料自体が必要なのか?」というところです。データ収集→レポート作成→会議→分析→施策決定、という業務は、AIが常時分析→重要な変化だけ通知→改善案を提示→人が必要な判断だけ行う、という形に変えられる可能性があります。
つまり、人の作業をAIへ置換するのではなく、現在の業務→本来の目的を確認→AI前提で再設計する。AX推進は「AI導入プロジェクト」ではなく、BPR(業務改革)のプロジェクトとして進めることが重要です。推進体制に経営層と現場の両方が必要な理由も、ここにあります。
【waltsu視点】試行回数で評価する
AI導入の成果としては、「何時間削減できたか」が注目されやすいものです。もちろん工数削減は重要です。しかし、マーケティングや事業開発では、それ以上に重要な評価軸があります。「何回試せるようになったか」です。

従来、調査→企画→制作→配信→分析→改善のサイクルを月1回しか回せなかった企業が、AIで調査・分析・案出し・制作を高速化し、毎週改善できるようになったとします。年間で、12回の改善と50回の改善。この試行錯誤の量の差が、時間とともに成果の差になります。
だからこそ、waltsuはAX推進のKPIに「試行回数」を入れることを推奨しています。AXによって生まれた時間を、仕事を早く終わらせるだけに使わない。仮説を増やし、施策を増やし、テストし、結果を見て、改善する。AX推進の本当の価値は、同じ仕事を速くすることではなく、企業ができる試行錯誤の量を増やすことにあります。
よくある質問
AX推進とは何ですか?
AIを組織的に活用し、業務プロセス、意思決定、商品・サービス、組織などを変革していく取り組みです。個人のAI活用で終わらせず、会社として計画的に進めることを指します。
AX推進とDX推進の違いは?
DXはデジタル技術を活用した企業変革、AXは特にAIを中心として業務や意思決定まで含めて再設計する取り組みです。対立するものではなく、DXで整えたデータ・システム基盤をAXで活用する関係です。
AX推進は何から始めればいいですか?
AIツールの選定からではなく、目的を決める→業務を整理する→AI活用候補を探す→優先順位を決める→小さく検証する、という順番で始めてください。
AX推進の担当部署はどこですか?
企業によって異なり、DX推進部門、IT部門、経営企画、AI推進室などが中心になる場合があります。ただし、実際の業務改革には現場部門の参加が不可欠です。
AX推進にAI人材は必要ですか?
必要ですが、全社員をAIエンジニアにする必要はありません。経営、AX推進担当、現場推進者、一般社員という役割ごとに、必要なAIスキルを分けて考えてください。
AX推進のKPIには何を設定しますか?
AI利用人数だけでなく、削減時間、業務実装数、品質、売上・CVなどの事業成果、そして試行回数など、AI導入による業務・事業の変化を測る指標を設定します。
中小企業でもAX推進はできますか?
できます。むしろ人員が限られている企業ほど、AIによる効率化の効果が大きい場合があります。全社規模で始めず、効果の大きい業務を1つ選んで小さく検証する方法が取り組みやすいです。
AX推進で最も重要なことは何ですか?
AI導入を目的にしないことです。「どの業務にAIを入れるか」だけでなく、「AIが使えるなら、この業務をどう作り直すべきか」まで考えることが重要です。
まとめ
この記事の要点
・AX推進は、個人のAI活用で終わらせず、組織として業務変革を計画的に進めること
・個人の活用→業務のAI化→業務プロセスの再設計、の3段階で進める
・体制は経営層・推進チーム・現場・IT法務の連携。現場を巻き込むことが必須
・KPIは利用数でなく事業の変化と「試行回数」で評価する
AX推進とは、AIを導入することではなく、AIを前提として企業の業務や組織を変革していくことです。目的を決め、業務を整理し、優先順位をつけ、人とAIの役割を決め、小さく検証し、業務へ組み込み、全社へ展開する。そして、人がやっている仕事をAIに置き換えるだけで終わらせず、「AIが使えるなら、この仕事はどうあるべきか」まで再設計する。
AX推進の目的は、AIを使っている会社になることではありません。判断を速くし、業務を変え、顧客体験を改善し、試行回数を増やすことで、企業そのものの競争力を高めることです。まずは、効果が大きく導入しやすい業務を1つ選ぶところから始めてみてください。waltsuでは、マーケティング業務を起点としたAX推進の設計、AI活用の業務への組み込み、成果の出る運用づくりまでご支援しています。
