・AIエージェントに何を任せられるのか知りたい
・業務名の一覧を見ても自社に当てはめられない
・一度試したが期待と違った
営業に使えます、マーケティングに使えます。AIエージェントの記事を何本読んでも並ぶのは業務名の一覧で、自社の仕事のどこを渡せばいいのかは決まりません。一度試して期待外れに終わり、AIが悪かったのか渡し方が悪かったのかも分からないまま止まっている、という話もよく聞きます。
できる・できないは業務では決まりません。決まるのは工程です。同じ営業の中でも、相手企業を調べる工程は渡せて、値引きを決める工程は渡せません。本記事では、仕事を工程に割る手順、任せ方の3つの形、渡せる工程を見分ける4条件、業務別の工程表2枚、向かない工程、会社によって線が変わる理由、範囲の広げ方までを整理します。
この記事を監修した人

AIエンジニア
小洞 映ハユル コボラ
この記事のゴール(読了目安 約10分)
自社の仕事を工程に割り、どの工程をどの形で渡すかを、自分で判定できるようになる。
AIエージェントに任せられる仕事
任せる単位は業務ではない
「営業を任せられますか」という問いには、答えが出ません。AIエージェントは目標を渡すと計画から実行、確認までを自分で進める仕組みですが、営業という言葉が指しているのは10以上の工程の束です。束のまま問えば、答えは「できるところもある」にしかなりません。
必要なのは、問いの単位を業務から工程へ下げることです。
工程ごとに答えが変わる
同じ営業の中でも、相手企業の情報を調べる工程は渡せます。値引きをいくらにするか決める工程は渡せません。前者は入力も出力も文字にでき、間違っていれば出典を見れば分かります。後者は、そのときの事情で正解が変わる工程です。
だから問いは「AIエージェントで何ができるか」ではなく、「この工程を渡せるか」になります。

仕事を工程に割って見る
工程に割るときに書き出すのは、次の4つだけです。
- 工程: 成果物が変わるところで区切ったひと続きの作業
- 入力: その工程を始めるのに要るもの
- 出力: 終わったときに出ているもの
- 完了条件: 何が出てきたら終わりか
工程はどこで区切るか
区切りは成果物が変わるところです。調べる、まとめる、書く、送る。時間で区切らず、担当でも区切りません。担当で区切ると、1人が続けてやっている部分が丸ごと1工程になり、中が見えなくなります。
入力と出力を先に書く
各工程に、始めるのに要るものと、終わったときに出ているものを1行ずつ書きます。入力が言葉になっていない工程は、この時点で渡せません。
完了の条件を決める
何が出てきたら終わりかを書けない工程は、AIにも終われません。ここを飛ばすと、いつまでも調べ続けて費用だけが増えます。
任せ方は3つに分かれる
渡し方は、人が何を受け取るかで3つに分かれます。
下書きまで作らせる
出てくるのはたたき台です。人が直してから使うので、外へは何も出ません。間違っていても損は出ないので、最初に渡すならこの形です。
実行して報告させる
AIが手を動かし、結果と根拠を人に返します。人は事後に見ます。取り消せる操作に限るのが条件です。
判断まで任せる
決めた条件の中でAIが判断して終わらせ、例外だけ人へ上げる形です。ここまで渡すには、どこまで自分で判断させるかの水準設計が別に要ります。その設計は自律型AIエージェントの記事の担当なので、本記事では扱いません。
渡せる工程を見分ける条件
渡せるかどうかは、次の4つで判定できます。
- 入力が揃っている: 始めるのに要る情報が、社内のどこかに文字で存在する
- 出力の形が決まっている: 何が出てきたら完了かを1行で書ける
- 正しさを人が判定できる: 出てきたものが合っているかを、その場で見分けられる
- 間違えても戻せる: やり直しの費用が、その工程を人がやる費用より小さい
渡せる工程に共通する形
4つとも満たす工程は、たいてい調べる、まとめる、形を揃えるのどれかです。確認を工程のどこに置くか、どう置くかは別記事の担当なので、ここでは条件として挙げるにとどめます。
【関連記事】AIの信頼性とは?損なう原因・測り方・人の確認の置き方を解説
条件を満たさないときは
1つでも欠けたら渡さない、ではありません。見るのは欠けている条件を足せるかどうかです。入力が誰かの頭の中にしか無いなら文字にする。完了条件が決まっていないなら先に1行で書く。足せた時点で、その工程は候補に戻ります。
工程が長いほど失敗が増える
成功率は長さで落ちる
長い仕事は小さな作業の連なりです。どれか1つを外すと全体が外れるので、工程が長くなるほど成功率は急速に落ちます。研究者のトビー・オードも、AIエージェントの成功率は仕事の長さに対して指数的に下がると論じています。
短く割ると保ちやすい
同じ仕事でも、3つに割って途中に確認を挟めば、失敗しても1工程分しか戻りません。丸ごと渡して駄目だった、の原因はここにあります。任せられる仕事の長さを、人の専門家がかかる時間で測る指標も研究機関METRから出ています。ただし割れば済むわけではありません。割った先で何が起きるかは、あとの章で扱います。

営業準備の工程で線を引く
商談前の準備を6つの工程に割ると、線はこう引けます。渡せるのは6つのうち4つです。
同じ表を作っても、線の引き方は会社によって変わります。なぜ変わるのかは、このあとの章で扱います。
問い合わせ対応で線を引く
同じ列で問い合わせ対応を割ると、営業準備と同じ結論にはなりません。
振り分けと検索は渡せて、例外の承認と引き止めは渡せません。業務名で見れば同じ問い合わせ対応でも、工程で見ると線が入ります。
任せないほうがいい工程
渡せない工程には、3つの性質のどれかがあります。AIが苦手だから、ではありません。
正解が状況で変わる工程
値引き、優先順位、人の評価。同じ入力でも、そのときの事情で答えが変わります。正解が1つに決まらない工程は、渡すと判定ができなくなります。
裏を取れない工程
出てきたものが正しいかを、誰も判定できない工程です。確かめられない出力は、速く出ても使えません。
責任が人に残る工程
顧客への約束、契約、支払い。実行は渡せても、責任は移りません。権限をどこまで与えるかの設計はAIエージェントのセキュリティの記事で扱っています。
会社によって線が変わる理由
同じ見積を作る工程でも、渡せる会社と渡せない会社があります。差は3つです。
データが揃っているか
価格表が文字になっているか、例外が誰かの頭の中にしか無いか。渡せる範囲は、社内が何を文字にしているかで決まります。
確認にかかる時間
出力を5分で見られる会社と、担当者を捕まえるのに半日かかる会社では、同じ工程でも線が違います。
間違いを戻せるか
誤送信をすぐ取り消せる仕組みがあるか。戻せない会社は、1つ手前の工程で止めます。
期待とずれる3つの型
丸投げして精度を責める
1つの仕事を丸ごと渡し、思ったものが出てこなかったので使えないと結論する型です。落ちたのは工程の長さであって、モデルの性能ではありません。
確認を挟まず事故る
下書きで受け取るべき工程を、実行まで渡してしまう型です。渡し方を1段上げるのは、出力を何度か見てからにします。
指示が粗く結果がぶれる
1回はうまくいったのに、同じ指示で毎回違う結果が返る型です。1回の成功率と、繰り返しての安定は別物です。2024年6月時点の評価で、当時の代表的なモデルを対象にしたτ-benchの研究では、同じ課題を何度も試したときに全部成功する割合が大きく落ちることが報告されています。
任せる範囲を広げる順番
最初に渡す工程の選び方
4条件を全部満たす工程のうち、いちばん回数が多いものから渡します。1回で終わる工程は、渡した結果が次に生きません。渡す前に見るのは次の5つです。
- 入力: 始めるのに要る情報が文字になっているか
- 完了条件: 何が出てきたら終わりかを1行で書けるか
- 判定: 出力の正しさを、その場の人が見分けられるか
- 復旧: 間違えたときに戻せるか
- 記録: 人が手を入れた箇所を控えられるか
広げるか戻すかの判断
見るのは人が手を入れた箇所の数です。前回より減っていれば1つ広げ、増えていれば1つ戻します。広げるときに足す条件は1つだけです。渡せた工程を隣の工程へつなぎ、複数の工程をまたいで動かす設計については、別記事で解説しています。
【プロの視点】渡せるかは入力で決まる
渡す工程を選ぶとき、多くの記事も社内の議論も、判定をAIの能力の話にします。調べるのは得意、文章を作るのは得意、判断は苦手。だから得意なところから渡しましょう、と。
この見方は、工程に割ったときに何が起きるかを飛ばしています。見るべきは能力ではなく、その工程の入力を、人の頭を経由せずに文字で渡しきれるかです。
人が続けて手を動かしているあいだ、工程と工程のあいだは誰も書いていない文脈でつながっています。前回この客は納期で怒っていた、この案件は社長が持ってきた、この数字はまだ暫定。1人でやっているうちは頭の中で次の工程へ運ばれるので、誰もそれを情報だと思っていません。
工程を渡すと、この境目で文脈が伝わらなくなります。事故の多くは能力不足ではなく、ここで起きています。しかも出てきたものは筋が通っていて、違うのは前提だけです。だから読んでも間違いに見えません。もっと賢いモデルにすれば直ると考えてしまうのは、この見え方のせいです。
判定はこう変わります。AIはこの工程ができるか、ではなく、この工程の入力を、口で言わずに書き出せるか。書き出せない項目が残るなら、その工程はまだ渡せません。逆に、得意そうに見えなくても入力を書き切れる工程は渡せます。
明日やる最初の一歩は、直近に人へ引き継いだ仕事を1件選び、そのとき口で言った内容を書き出してみることです。書けなかった項目が、その工程をまだ渡せない理由です。

【waltsu視点】任せる範囲は後から決まる
どこまで任せられるかは、始める前には決められません。計画の段階で、この業務のここからここまで、と線を引いても、その線はほぼ当たりません。渡して、人がどこにどれだけ手を入れたかを見て、はじめて次の線が引けます。
提案の準備も、社内で工程に割って渡す範囲を決めています。ドメインと参考にしたいサイトを入力すると、サイトマップの案、提案資料、メールの文面、見積の下書きまでが一続きで出てくる仕組みを作りました。いまも手を入れながら使っています。渡しているのは形に起こす工程で、相手を調べて現状を診断する手前の工程は、まだ人がやっています。前の章の表では調べる工程を渡せる側に置きましたが、自社の線はそこに引けていません。会社によって線が変わるというのは、こういうことです。
記事の制作でも同じでした。最初に渡したのは本文ではなく構成案です。本文を丸ごと出させると、使えるかどうかを判断するのに結局ひととおり読む時間がかかります。構成案なら見出しの並びを見るだけで、直すか通すかが決まります。工数が減る見込みが立ったのは、こちらでした。本文から渡すつもりでいたら、この線は引けていません。
求める水準は先に決められます。渡せる範囲は先には決められません。前者は業務の性質で決まり、後者は自社が何をどこまで言葉にできているかで決まるからです。
だから、任せられる範囲を広げる投資先は、より賢いモデルでも新しいツールでもありません。口伝えになっている前提を、1つずつ文字にすることです。言葉にできた分だけ渡せます。次の一歩は、いま口で伝えている前提を1つ選び、今週のうちに1行で書き起こしてみることです。

よくある質問
最初はどの工程から任せる?
4つの条件を満たす工程のうち、いちばん回数が多いものからです。調べる、まとめる、形を揃えるといった工程が候補になりやすく、出力の正しさをその場で見分けやすい点も共通しています。
AIエージェントに向かない仕事は?
正解が状況で変わる工程、出力の正しさを誰も確かめられない工程、責任が人に残る工程の3つです。値引きの決定や契約の承諾が当てはまります。業務としてではなく、工程の性質として渡せないと考えてください。
精度は何%あれば任せられる?
数字だけでは決まりません。同じ精度でも、入力を書き切れているか、間違えたときに戻せるかで判断は変わります。まず入力と完了条件を書き出し、それから渡し方を決めてください。
業務を丸ごと任せられる?
工程が長くなるほど、途中のどこかで外れる確率が上がります。結果が安定するのは、丸ごと渡すより、割って途中に確認を挟むほうです。
中小企業でも始められる?
始められます。むしろ工程が少なく、前提を知っている人が近くにいるぶん、入力を書き切りやすい環境です。まず1工程を下書きまでの形で渡すところから試してください。
この記事のポイント
・任せられるかは業務ではなく工程で決まる
・渡せる条件は入力・完了条件・正しさの判定・戻せるかの4つ
・任せ方は3つ。下書きまで、実行して報告、判断まで
・分けるのはAIの得手不得手ではなく、入力を書き切れるか
まとめ
AIエージェントに何を任せられるかは、業務名では決まりません。同じ営業の中でも、調べる工程は渡せて、値引きを決める工程は渡せない。判定するのは、入力が揃っているか、完了条件を1行で書けるか、正しさを人が判定できるか、間違えても戻せるかの4つです。
線は会社によって動きます。価格表が文字になっているか、出力を何分で確認できるか、間違いを戻せるか。他社の導入事例をそのまま持ってきても、自社の線にはなりません。
まずは直近の仕事を1つ選び、工程に割って入力と完了条件を書き出してみてください。そのうえで、どの工程から渡すかの線引きや、口伝えになっている前提の整理に迷う場面が出てきたら、waltsuが業務の工程整理からご支援します。
