・デザイン修正の指示に自信がない
・直してもらったのに違和感が残る
・修正の往復が何度も発生している
「ここを赤にしてください」「順番を入れ替えてください」「簡単にできますよね?」。デザイナーへ修正を依頼したとき、なぜか歯切れの悪い反応が返ってきた経験はないでしょうか。実は、現場のデザイナーには「それ、最初に言ってほしかった」「その指示だと困る」と静かに萎えている瞬間があります。
先にお伝えしておきたいのは、デザイナーが困っているのは修正が来ること自体ではないということです。困るのは、背景・目的・優先順位が分からないまま、具体的な答えだけを指定されること。本記事では、現役デザイナーへのインタビューをもとに、デザイナーが萎える瞬間とその理由、そして「伝わる修正指示の出し方」までをセットで解説します。デザイナーを責める記事ではなく、お互いの仕事を速く、良くするための記事です。
この記事のゴール(読了目安 約9分)
デザイン修正が「一部分の変更作業」ではなく全体の意図・構造に関わる仕事だと理解し、HOW(答え)ではなくWHY(目的)を共有する修正指示を出せるようになる。
デザイナーが萎える瞬間
「簡単にできるでしょ?」と言われたとき
インタビューで最も多く挙がったのがこれです。変更の操作自体は、たしかに数分で終わることもあります。しかし「その変更で全体が良くなるか」の検証と調整には時間がかかります。操作の速さと仕事の速さを同一視されると、調整の工程が「なぜそんなに時間がかかるの?」という不信に変わってしまいます。
「最初に言ってほしかった」と思うとき
もう1つの典型が、制作が進んだ後の前提変更です。ターゲットが変わる、ブランドイメージが変わる、コンテンツが増える、ページの順番が変わる。これらは「修正」ではなく「作り直し」に近い変更ですが、依頼側からは小さな調整に見えがちです。このほか、「ここをこの色にして」と理由なく答えだけ指定される、複数の人からバラバラに修正が届く、終盤での「やっぱり方向性を変えたい」も、現場が静かに萎える瞬間として挙がりました。

「簡単にできる」の落とし穴
なぜ「簡単でしょ?」がすれ違いを生むのか。変更する・良くなる・全体が整う、の3つが別の仕事だからです。
色を変える操作は一瞬です。しかし、その色で本当に目的が達成されるかの判断は別で、さらに1箇所変えた影響で周囲との関係が崩れていないかの調整はもっと別です。AIの普及で60〜70点のデザインが一瞬で作れるようになったことも、この誤解を強めています。形になるのが速いほど、仕上げも速いはずだと見えてしまう。実際には、最後の詰めにかかる時間はAI以前とあまり変わっていません。この構造は、AIとデザインの関係を扱った別記事で詳しく解説しています。
「この色にして」が困る理由
意外に思われるかもしれませんが、デザイナーが困っているのは、色を具体的に指定されること自体ではありません。なぜその色にしたいのかが分からないことです。
デザインの色は単体で決まっておらず、周囲の色との関係、情報の強弱、ブランドの印象とセットで設計されています。理由が分からないまま1箇所だけ色を変えると、その関係が崩れます。しかも目的が分からなければ、「指定どおりに変えたが、依頼者の本当の課題は解決していない」という最悪の結果もありえます。指定された作業は完了したのに、違和感は残ったまま。修正の往復が増える典型パターンです。
色は理由まで伝える
では、どう伝えればよいのか。悪い例と良い例を比べます。以下の表にまとめます。
違いは3つの要素です。目的を伝える(信頼感を強めたい)、感じている違和感を伝える(少し軽く感じる)、具体例は指定ではなく参考として渡す(〜くらいをイメージ)。この形なら、デザイナーは目的に照らして「その青が最適か、別の手があるか」まで検討できます。具体的な色を口にしてはいけないのではなく、理由とセットにすればよいのです。
順番変更で全部が変わる
「コンテンツの順番を入れ替えるだけ」も、依頼側とデザイナーの体感が最も食い違う修正です。
デザインは、要素の並び順を前提に、情報の強弱・視線の流れ・余白が設計されています。先頭に来る前提で強く作られた要素が中段へ移れば悪目立ちし、中段前提の要素が先頭に来れば第一印象として弱すぎる。1箇所の入れ替えは、ページ全体のバランス調整を連れてきます。とくにファーストビューは、ページ全体の方向性を決めている場所のため、後から変えたときの影響が最も広くなります。順番とレイアウトの関係は、AIサイト制作の記事でも解説しています。
複数人からの修正は難しい
担当者Aから「もっと柔らかく」、上司Bから「もっと堅実に」、経営者Cから「もっと目立たせて」。別々に届く修正指示は、しばしば互いに矛盾します。
デザイナーはどれを優先すべきか判断できず、全部を取り込もうとすれば方向性が破綻します。インタビューでも、複数の窓口からバラバラに修正が来る案件は品質が崩れやすい、という実感が挙がりました。対策はシンプルで、社内の意見を集約する窓口と、最終決裁者を1人決めること。意見は複数あってよいのですが、デザイナーへ渡す前に「どれを採るか」を社内で決めておく必要があります。
プロに任せるとは
ここまでをまとめると、デザイナーとの良い付き合い方が見えてきます。答えを細かく指定して「作業者」として使うのではなく、課題を共有して「専門家」として相談することです。
実際、インタビューでは「指示どおりに直すだけなら、プロとしての価値がない」という言葉がありました。良いデザイナーは、要望をそのまま実行する前に意図を考えます。そして「要望どおりに直した案」と「目的から考えた提案案」の両方を出したい、と考えています。答えを固定した指示は、この提案の余地を奪ってしまいます。丸投げでも、細かい指定でもなく、目的を渡して解決策を任せる。これがプロに任せるということです。
伝わる修正指示の出し方
実務で使える型として、修正指示に入れる5項目を紹介します。
- どこが気になるか: 対象の場所を特定する(ファーストビューの見出し、など)
- なぜ気になるか: 感じている違和感を言葉にする(少し軽く見える、読みにくい、など)
- 何を実現したいか: 目的を伝える(信頼感を強めたい、問い合わせを増やしたい、など)
- 参考はあるか: イメージに近い例があれば「参考として」渡す
- 優先順位はどうか: 複数ある場合、どれが最重要かを伝える
すべてを毎回書く必要はありません。最低限、「なぜ」と「何のため」の2つがあるだけで、修正の往復は目に見えて減ります。
最初に共有してほしいこと
修正を減らす最大の打ち手は、実は修正指示の上達ではなく、着手前の共有です。以下の表にまとめます。

この6点を渡しておくと、「最初に言ってほしかった」の大半は起きません。
途中で前提が変わること自体は、仕方のない場面もあります。そのときは「小さな修正」として伝えるのではなく、前提が変わったことを正直に共有してください。作り直しの範囲をプロとして見積もり直せるため、結果的に早く着地します。
AI時代でも同じ
ここまでの話は、実はAIに指示する場面でもそのまま当てはまります。AIに「青にして」と伝えれば、青にはなります。しかし、なぜ青なのかを渡さなければ、全体との整合はAIにも取れません。背景情報の量が出力の品質を決めるのは、人もAIも同じです。
違いは、その先です。AIは指示どおりに作るだけですが、プロのデザイナーは「なぜ青にしたいのか」を考え、目的に照らして、より良い方法まで提案できます。作業が簡単になるほど、言われたとおりに作る仕事の価値は下がり、「なぜ」を考えて提案できる仕事の価値が上がる。AI時代にプロへ依頼する意味は、まさにここにあります。
【プロの視点】困るのは修正でなく「背景のなさ」
インタビューを通して見えたのは、デザイナーが萎える瞬間には共通の構造がある、ということです。

「簡単でしょ?」も、理由のない色指定も、突然の順番変更も、矛盾する複数の指示も、根は1つです。背景が分からない、目的が分からない、優先順位が分からない状態で、具体的な答えだけが指定されること。デザインは無数の判断が意図でつながった構造物なので、意図を知らされないままの部分変更は、構造を壊す作業になってしまうのです。
だから、依頼側が持つべきなのはデザインの知識ではありません。役割分担の意識です。クライアントは目的(WHY)を伝える。デザイナーは解決方法(HOW)を考える。この分担が守られている案件は、修正が少なく、仕上がりも良くなります。
【waltsu視点】WHYの共有は依頼側も速くする
「目的まで言語化するのは面倒」と感じるかもしれません。しかし実務では逆で、WHYを共有したほうが依頼側も速くなります。

答えだけを指定する進め方では、出てきたものに違和感が残るたび、また次の答えを考えて指示する必要があります。往復のたびに考えるのは依頼側です。一方、目的を渡す進め方では、解決策を考えるのはプロの側になり、依頼側は出てきた案を目的に照らして判断するだけで済みます。
waltsuでも、制作をAIやデザイナーへ依頼する際は、目的・ターゲット・守りたい印象を先に文書化してから渡す運用にしています。往復が減った分だけ、同じ期間で試せる施策の数が増えました。WHYの言語化は、丁寧さのためのマナーではなく、スピードのための投資です。
よくある質問
デザイン修正は何回までが普通ですか?
契約や案件によりますが、回数そのものより「前提が固まっているか」が重要です。目的・コンテンツ・決裁者が最初に固まっていれば、2〜3回の調整で着地するケースが多くなります。
具体的な色を指定してはいけませんか?
指定しても構いません。困るのは、理由が分からないことです。「信頼感を強めたいので、このくらいの青をイメージしています」のように、目的とセットで、参考として伝えてください。
参考サイトはどう伝えればいいですか?
「このサイトのどこが、なぜ良いと感じたか」まで添えてください。全体の雰囲気なのか、配色なのか、情報の見せ方なのか。参考の意図が分かると、表面的な模倣ではなく本質を取り込めます。
デザイン完成後に文章を変更できますか?
少量の修正なら可能ですが、分量や順番が変わる変更は、レイアウト全体の調整が発生します。文章は可能な限りデザイン着手前に確定させるのが、結果的に最も速い進め方です。
デザイナーへ任せる範囲はどこまでですか?
目的・ターゲット・ブランドの方向性は依頼側が決め、それをどう表現するかはデザイナーに任せるのが基本形です。答えの指定ではなく、課題の共有と提案の依頼、と捉えてください。
まとめ
この記事の要点
・デザイナーが困るのは修正ではなく、背景・目的・優先順位が分からないまま答えだけ指定されること
・色も順番も、デザイン全体の意図とつながっている。部分変更は全体調整を連れてくる
・修正指示は「どこが・なぜ・何のため・参考・優先順位」。最低限WHYの2つで往復が減る
・着手前に目的・ターゲット・ブランド・コンテンツ・決裁者を共有するのが最大の時短
デザイナーが萎える瞬間の正体は、修正の多さではなく、意図の見えない指示でした。デザインは無数の判断が1つの意図でつながった構造物です。だからこそ、依頼側は目的(WHY)を伝え、解決方法(HOW)はプロに任せる。この役割分担が、修正の往復を減らし、仕上がりを良くします。
そしてこの原則は、AIに作らせる時代になっても変わりません。むしろ作業が簡単になるほど、「なぜ」を考えて提案できるプロの価値は上がっていきます。サイトやデザインの制作を「作業の発注」ではなく、目的・コンテンツ・デザインまで含めて一緒に設計する形で進めたい場合は、waltsuが制作の設計段階からご支援します。
