・マーケティング3.0を知りたい
・2.0との違いが曖昧
・3iモデルを整理したい
マーケティング1.0では「製品」、マーケティング2.0では「顧客」。そしてマーケティング3.0では、「人間」が中心になります。
マーケティング3.0とは、フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワンが体系化した「価値主導・人間中心のマーケティング」という考え方です。2010年に出版された『Marketing 3.0』(Wiley「Marketing 3.0: From Products to Customers to the Human Spirit」書誌情報)では、顧客を単なる消費者ではなく、マインド・ハート・精神を持った多面的な人間として捉える考え方が示されています。
マーケティング2.0では「顧客は何を求めているか?」を考え、ニーズに合った商品を提供することが重要でした。マーケティング3.0ではさらに、その企業は何を大切にしているのか→社会にどんな価値を提供するのか→その考え方に顧客は共感できるか、まで考えます。つまり、商品を買う人ではなく、「価値観を持つ一人の人間」として顧客を見るのです。
本記事では、マーケティング3.0の意味、誕生した背景、特徴、3iモデル、マーケティング2.0・4.0との違い、現代企業での活用方法まで解説します。
この記事のゴール(読了目安 約14分)
マーケティング3.0を一言で説明でき、3iモデル(Identity・Integrity・Image)を使って、自社の理念と事業・顧客体験の一貫性を点検できるようになる。
マーケティング3.0とは
マーケティング3.0とは、「価値主導・人間中心のマーケティング」です。コトラーらは、マーケティングの進化を、1.0=製品中心→2.0=顧客中心→3.0=人間中心・価値主導、と整理しました。
Philip Kotler ほか『Marketing 3.0: From Products to Customers to the Human Spirit』第1章(Wiley公式抜粋)では、顧客を単なる消費者ではなく、マインド・ハート・精神を持つ全人格的な存在として捉えます。そして顧客は、機能的な満足だけでなく、感情的な満足、精神的な満足まで求めると考えます。
マーケティング3.0の問いは、「顧客は何が欲しい?」だけではありません。「顧客はどんな世界を望んでいる?」「自社はそこへどんな価値を提供する?」まで広がるのです。
なぜマーケティング3.0が生まれた?
マーケティング3.0は、単純な流行として生まれたわけではありません。『Marketing 3.0』では、参加の時代、グローバル化のパラドックス、創造的社会という3つの力が背景として説明されています。実務の視点では、次の4つの変化として整理できます。
ソーシャルメディアの普及
SNSの普及によって、消費者自身が情報を発信できるようになりました。企業→広告→消費者という一方向から、企業・顧客・社会が相互に発信し合う形へ。企業だけがブランドイメージを作ることが難しくなり、広告で言っていることと実際にやっていることが一致しているかが重要になりました。
商品がコモディティ化した
市場が成熟すると、機能・品質・価格だけでは競合との差が小さくなります。A社もB社もC社も高品質、となれば「どの会社から買うか」を決める理由が必要になり、ブランド、理念、企業姿勢、ストーリー、社会的価値が選択理由になっていきました。
社会課題への関心が高まった
環境問題、貧困、格差など、企業活動と社会課題の関係が注目されるようになりました。顧客も、安いから・便利だから買うだけでなく、「その企業を支持してよいか」まで見るようになります。
顧客が企業活動に参加するようになった
顧客は受け身の消費者ではなくなり、商品開発、レビュー、コミュニティ、SNS、口コミを通じてブランド形成にも参加します。マーケティング3.0では「協働」が重要なテーマになっています。
マーケティング3.0の5つの特徴
人間中心
最大の特徴です。2.0が顧客を「消費者」として見るのに対し、3.0は顧客を「人間」として見ます。人にはニーズだけでなく、感情、価値観、信念、社会への意識、自己実現があります。そのため企業は、商品価値だけでなく「企業として何を信じているか」も示す必要があります。
価値主導
企業理念や価値観をマーケティングへ組み込みます。何を売るのかだけでなく、なぜこの事業をするのか→社会をどう良くしたいのか→顧客とどんな未来を作りたいのか、を示します。
ミッション
コトラーらは、顧客へミッションを伝える際に、変革をもたらすミッション、人を動かすストーリー、顧客を参加させること、を重視しています(Philip Kotler ほか『Marketing 3.0』第3章「Marketing the Mission to the Consumers」(Wiley Online Library))。「私たちは○○を売っています」ではなく、「私たちは○○を変えるために存在しています」まで伝えるのです。
顧客との協働
企業がすべて決めるのではなく、顧客と一緒に商品、ブランド、社会的価値を作っていきます。
一貫性
理念を掲げるだけでは足りません。広告で「環境を大切にします」と言いながら、実際には環境を無視した事業活動をしていては信頼されません。言っていることと、やっていることの一致が重要になります。
マーケティング2.0との違い
両者の違いを整理します。以下の表にまとめます。

2.0は顧客のニーズを見る。3.0は顧客のニーズ+価値観+社会との関係まで見る。この対象の広がりが本質的な違いです。マーケティング2.0の詳細は、別記事で解説しています。
【関連記事】マーケティング2.0とは?顧客中心の考え方・STP・1.0との違いを解説
3iモデルとは
マーケティング3.0で重要なフレームワークが「3iモデル」です。コトラーらは、ブランド・ポジショニング・差別化を、Identity・Integrity・Imageが調和する形で考えるモデルを提示しています(Philip Kotler ほか『Marketing 3.0』第2章「Future Model for Marketing 3.0」(Wiley Online Library))。

Brand Identity|私たちは何者か
企業側が「私たちは何者なのか」を定義します。誰を支援する会社か、何が強みか、どんな価値を届けるか。マーケティング2.0のポジショニングとも深く関係します。
Brand Integrity|約束を守っているか
企業が掲げる価値を「本当に実行しているか」です。顧客第一と掲げているのに解約方法を分かりにくくする、環境重視と言いながら実際の活動が伴っていない、ではIntegrityが弱い状態です。
Brand Image|顧客からどう見えるか
顧客側が「この企業をどう認識しているか」です。企業が「私たちは革新的です」と言っていても、顧客が「古い会社だと思う」なら、IdentityとImageが一致していません。
3iでは、何者だと定義するか(Identity)→その約束を実行しているか(Integrity)→顧客からどう見えているか(Image)、の3つを一致させることが重要です。
3iとSTPの関係
マーケティング2.0ではSTPによって、誰に、どんな立ち位置で価値を届けるかを決めました。マーケティング3.0では、そのポジショニングに「本当の企業姿勢が伴っているか」まで見ます。
たとえば、Positioning=環境に優しいブランド→Identity=環境配慮をブランドの中心に置く→Integrity=商品・物流・調達でも環境配慮を実行→Image=顧客から環境に配慮した企業として認識される、という状態です。
つまり、STP=市場でどんな位置を取るか→3i=そのブランドが本物として信頼されるか、という関係で考えられます。
マーケティング3.0の3つの価値
顧客へ提供する価値を3段階で考えると分かりやすくなります。
機能的価値
商品・サービスが何をできるか。速い、安い、丈夫、便利、など。
感情的価値
利用したとき、どんな気持ちになるか。楽しい、安心、誇らしい、ワクワクする、など。
精神的・社会的価値
商品や企業を選ぶことで「自分の価値観に合っている」と感じられるか。環境に配慮する、地域を応援する、社会課題を解決する、など。
マーケティング3.0では、機能的価値だけでなく、感情的+精神的価値まで対象を広げます。
マーケティング3.0の事例
特定企業を「3.0企業」と断定するより、どのような状態が3.0的なのかを例で示します。
アパレル
2.0的には、高品質・デザイン・価格で顧客ニーズへ応えます。3.0的には、さらに環境負荷、長く使える商品設計、労働環境、リサイクルなどの価値観までブランドへ組み込みます。
食品
2.0的には、おいしい・安い・健康的。3.0的には、さらに生産者支援、地域社会、食品ロス、持続可能な調達まで含めて価値を提供します。
BtoB企業
2.0的には、顧客業務を効率化するSaaS。3.0的には、「働く人が本質的な仕事へ集中できる社会を作る」というミッションを掲げ、商品開発・採用・顧客支援まで一貫して実践します。
重要なのは、社会貢献キャンペーンを実施しただけではないこと。事業そのものとミッション・価値観がつながっている必要があります。
CSRとの違い
マーケティング3.0=CSR、ではありません。CSRは、寄付、環境活動、地域貢献、コンプライアンスなど、企業の社会的責任に関する活動です。マーケティング3.0は、企業の事業・商品・ブランド・ミッション・顧客体験そのものへ価値観を組み込む考え方です。
本業の環境負荷が非常に高いまま、年1回環境団体へ寄付するだけでは、マーケティング3.0とは言いにくいのです。重要なのは、事業活動そのものと、企業が掲げる価値を一致させることです。
マーケティング3.0のメリット
価値主導のアプローチには5つのメリットがあります。
- 機能以外で差別化できる: 商品機能が似ていても、理念・価値観・社会への姿勢で違いを作れる
- ブランドへの共感を作れる: 「この商品が好き」だけでなく「この会社を応援したい」という関係を作りやすくなる
- 価格競争から離れやすい: 価格だけで比較される状態から、ブランドや価値も含めて選ばれる状態へ移行できる
- 従業員にも影響する: ミッションや価値観は、採用、組織文化、社員の意思決定にも影響する
- 長期的な信頼につながる: 言っていることとやっていることを一致させれば、ブランドへの信頼を積み重ねやすい
マーケティング3.0の注意点
一方で、注意点も4つあります。
- 理念だけでは商品は売れない: 理念が良くても、商品品質が悪い・価格が合わないなら売れない。3.0は1.0・2.0を捨てる考え方ではなく、良い製品+顧客理解+価値観のすべてが必要
- 社会貢献を広告にするだけでは弱い: 社会課題を企業イメージ向上のためだけに利用すると、かえって信頼を失う可能性がある
- 言行不一致は見抜かれやすい: SNS時代は、社員・顧客・取引先・メディアから実態が発信される。言葉と行動を一致させる
- 全員に共感される必要はない: 価値観を明確にすれば合わない顧客も生まれる。しかし、誰にでも好かれる理念は、誰にも強く支持されない理念になる可能性もある
マーケティング4.0との違い
3.0=人間中心・価値主導、4.0=デジタル時代における顧客とのつながり、と整理できます。3.0の主なテーマはミッション・共感・社会・ブランド。4.0の主なテーマは、オンラインとオフライン、カスタマージャーニー、コミュニティ、推奨、デジタル接点です。
重要なのは、3.0が終わって4.0になったわけではないこと。3.0の人間中心・価値を維持しながら、デジタル環境でどう顧客とつながるかが4.0です。そのつながり方を、認知から推奨までの5段階で捉え直したのが5Aで顧客行動をとらえるマーケティング4.0です。
マーケティング1.0〜5.0の違い
進化の全体像を「問い」で整理します。以下の表にまとめます。
マーケティングの進化は置き換えではなく、考える範囲の拡張です。通史はマーケティングの歴史の記事で解説しています。
【関連記事】【年表でわかる】マーケティングの歴史と変遷!1.0から最新トレンドまでの流れを徹底解説
現代でマーケティング3.0を使う7ステップ
顧客を理解する
まず2.0の土台です。誰なのか、何に困っているか、何を求めているかを整理します。
自社の存在意義を整理する
「何を売る会社か」だけでなく、「なぜこの会社が存在するのか」を考えます。
提供したい価値を決める
働き方を変える、地域を良くする、情報格差を減らす、企業の挑戦を支援する、など。
商品へ落とす
理念をWebサイトに書くだけでなく、商品、料金、サービス、顧客対応へ反映します。
3iを確認する
何者でありたいか(Identity)、実際にその価値を守っているか(Integrity)、顧客からそう見えているか(Image)を点検します。
顧客と一緒に価値を作る
インタビュー、コミュニティ、ユーザー参加、フィードバックなどの協働を設計します。
継続的に見直す
企業が掲げる価値と、実際の顧客体験にズレがないかを確認し続けます。
【プロの視点】本質は「言行一致」
マーケティング3.0というと、SDGs、環境、寄付、社会貢献という話になりやすいものです。しかし、本質は「社会貢献活動を増やすこと」ではありません。企業が掲げる価値と、実際の事業・行動を一致させることです。

たとえば、企業理念は「顧客第一」でWebサイトにもそう書いてある。しかし、契約は分かりにくく、解約は非常に難しく、問い合わせは人につながらない。3iで考えると、Identity=顧客第一、Integrity=実態が伴わない、Image=顧客から不誠実な会社と思われる、という状態です。
逆に、大きな社会貢献メッセージを発信していなくても、顧客との約束を守る→社員にも同じ価値観を適用する→商品・サービスへ反映する→顧客体験でも一貫する、なら、ブランドへの信頼は積み重なります。マーケティング3.0の本質は、「良いことを言うこと」ではなく、「自社が掲げる価値を、本当に事業で実行すること」です。
【waltsu視点】「なぜ自社なのか」を作る
マーケティングの流れを実務へ置き換えると、1.0=何を売るか→2.0=誰に何を売るか→3.0=なぜ自社がそれを提供するのか、と整理できます。

たとえばマーケティング支援なら、1.0的には「マーケティング支援を提供する」。2.0的には「マーケティング組織が不足している企業へ、戦略から実行まで提供する」。3.0的にはさらに、なぜその支援をするのか、どんな仕事を良い仕事だと考えるのか、顧客とどんな関係を作りたいのか、まで言語化します。
そして重要なのは、会社紹介ページに理念を書くことではありません。理念→サービス→提案→制作→顧客対応→成果→社内文化までつなげることです。「顧客の成果まで責任を持つ」という価値を掲げるなら、戦略だけ納品して実行は顧客へ丸投げ、では矛盾します。逆に、戦略→制作→運用→分析→改善まで同じチームが関われば、企業の価値観がサービス設計そのものに現れます。
マーケティング3.0で重要なのは、企業理念を格好よく作ることではなく、「企業の価値観を、顧客が実際に体験できる状態にすること」。商品差が小さくなり、AIによって情報やコンテンツも似やすくなるほど、何を売っているかだけでなく、「なぜこの会社が存在し、どんな姿勢で顧客と向き合っているのか」がブランドの差になりやすいのです。
よくある質問
マーケティング3.0とは簡単にいうと?
顧客を単なる消費者ではなく、価値観・感情・精神を持つ一人の人間として捉える「人間中心・価値主導」のマーケティングです。コトラーらの『Marketing 3.0』で体系化されました。
マーケティング3.0は誰が提唱しましたか?
フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワンが『Marketing 3.0』で体系化しました。同書は2010年に刊行されています。
マーケティング3.0はいつの時代?
1.0や2.0のように厳密な年代で区切るより、2000年代以降の社会・デジタル環境の変化を背景とする考え方として理解するのが適切です。概念としては2010年刊行の『Marketing 3.0』で体系化されました。
マーケティング2.0と3.0の違いは?
2.0は顧客中心で、顧客ニーズを理解し満足させることを重視します。3.0は人間中心で、ニーズだけでなく価値観・感情・社会への意識まで対象を広げます。
マーケティング3.0の3iとは?
Brand Identity・Brand Integrity・Brand Imageの3つです。自社が何者なのか、実際にその約束を守っているか、顧客からどう見られているかを一致させる考え方です。
マーケティング3.0とCSRの違いは?
CSRは企業の社会的責任に関する活動です。マーケティング3.0は、社会的価値や企業理念を、商品・サービス・顧客体験・ブランドまで含めてマーケティング全体へ組み込む考え方です。
マーケティング3.0では社会貢献が必要ですか?
単純に寄付や社会貢献活動を行えばよいわけではありません。重要なのは、自社の事業・ミッション・顧客への価値提供が一貫していることです。
マーケティング3.0は現在でも使えますか?
使えます。むしろ商品機能がコモディティ化し、SNSで企業の行動が可視化される現在こそ、企業理念、ブランド、信頼、言行一致は重要です。
AI時代にもマーケティング3.0は重要ですか?
重要です。生成AIによって文章・画像・商品説明を作りやすくなるほど、企業間の表面的な情報は似やすくなります。そのため、一次情報、企業独自の考え方、実績、文化、顧客との向き合い方など、その企業固有の価値が差別化につながりやすくなります。
まとめ
この記事の要点
・マーケティング3.0=人間中心・価値主導。顧客を「価値観を持つ一人の人間」として見る
・代表フレームワークは3i。Identity(何者か)・Integrity(実行しているか)・Image(どう見えるか)の一致
・CSRや社会貢献キャンペーンではなく、事業そのものへ価値観を組み込むこと
・実務の問いは「何を売るか」「誰に売るか」の次の「なぜ自社なのか」
マーケティング3.0とは、「人間中心・価値主導のマーケティング」です。マーケティング2.0では「顧客は何を求めている?」を考えました。3.0ではさらに、顧客は何を大切にしている?→自社は何を大切にしている?→両者が共感できる価値は何か?まで考えます。
その代表的な考え方が3iです。Brand Identity=私たちは何者か、Brand Integrity=その約束を本当に守っているか、Brand Image=顧客からどう見られているか。この3つを一致させることが、信頼されるブランドを作ります。
重要なのは、立派な企業理念を作ることではありません。企業が掲げる価値を、商品→サービス→顧客対応→広告→社員→経営判断まで一貫させることです。商品・価格・機能だけでは差別化しにくい現在だからこそ、何を売る会社なのかだけでなく、「何を信じ、どんな価値を実現する会社なのか」を明確にすることが重要です。「自社の理念とサービス・顧客体験の一貫性を整理したい」という場合は、waltsuがブランドの言語化からマーケティング戦略・施策への落とし込みまでご支援します。
