・生成AIの法律が不安
・日本のAI法を知りたい
・社内ルールを整えたい
ChatGPTをはじめとする生成AIは、文章作成、画像生成、データ分析、マーケティング、顧客対応など、さまざまな業務で利用されています。一方で、「ChatGPTに個人情報を入力していいのか」「AIで作った画像を商用利用できるのか」「AIが間違えて顧客へ損害を与えたら誰の責任なのか」「日本にもAIを規制する法律があるのか」という疑問も増えています。
日本では2025年6月に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、いわゆるAI法が公布され、2025年9月1日に全面施行されました。さらに2025年12月には、AI法にもとづく「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」も策定されています。
ただし、生成AIに関する法律を理解するうえで重要なのは、「AI法だけを見ればいい」わけではないことです。実際には、AI法に加えて、著作権法、個人情報保護法、不正競争防止法、民法、契約・利用規約、広告・消費者保護、業界ごとの法律などが、用途に応じて関係します。本記事では、生成AIと法律の関係、日本のAI法の内容、企業が確認したい8つの法律、法律違反になりやすいケースと対策まで解説します。
この記事のゴール(読了目安 約13分)
日本の生成AI法制の全体像(AI法・指針・ガイドライン・既存法)を整理し、自社のAI利用について「どの業務で、どの法律を、誰が確認するか」を設計できるようになる。
結論|生成AIには複数の法律が関係する
生成AIについて、「生成AI法という一つの法律だけ確認すればいい」わけではありません。

たとえば、顧客情報をAIへ入力するなら個人情報保護法。他社の記事をAIへ入力するなら著作権法。営業秘密を外部AIへ入力するなら不正競争防止法や秘密保持契約。AIで広告コピーを作るなら景品表示法などの広告規制。AIが顧客へ誤った回答をすれば民法上の責任。AIサービスの導入では利用規約・契約。用途によって、関係する法律が変わるのです。
つまり企業が見るべきなのは、「生成AIというツール」ではなく「生成AIを何に使うのか」。AI×入力データ×生成物×利用目的×影響する相手×外部操作によって、法的リスクは変わります。この視点が本記事全体を貫く軸です。
日本のAI法とは
2025年に成立・全面施行された
日本では2025年に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI法)が成立し、2025年6月4日に公布、2025年9月1日に全面施行されました(e-Gov法令検索「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)/内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」)。日本で初めてのAIに関する基本法です。
AIを禁止するための法律ではない
日本のAI法は、AIのイノベーション促進とAIリスクへの対応を両立させることを目的としています。同時に、AIが不正な目的や不適切な方法で利用された場合、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権侵害など、国民の権利利益を害する可能性があることも踏まえた法律です。
AIを活用する企業にも責務がある
AI法では、AIを利用した製品・サービスを開発・提供する事業者や、AIを事業活動へ利用する事業者が「活用事業者」として位置づけられ、国の施策への協力などの責務が規定されています。AI開発企業だけでなく、AIを業務利用する企業にも関係する法律だということです。
現時点では罰則中心ではない
日本のAI法には、現時点で一般的なAI利用に対する包括的な罰則規定はありません。国が調査研究を行い、事業者等への指導・助言・情報提供を行う仕組みが取られています。つまり日本のAI法は、AI利用を一律に禁止する規制というより、「AIを促進しながら適正利用を求める法律」として理解すると分かりやすいでしょう。
AI法に基づく「AI指針」
2025年12月19日には、AI法にもとづき内閣府(人工知能戦略本部)「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」が決定されました。
指針では、適正性確保に必要な主な要素として、人間中心、公平性、安全性、透明性、アカウンタビリティ、セキュリティ、プライバシー・個人情報、公正競争、AIリテラシー、イノベーションなどが挙げられています。
基本方針は、①リスクベース(影響が大きいAI利用ほど管理を強くする)、②ステークホルダーの積極的関与、③一気通貫のAIガバナンス、④アジャイルな対応(PDCAを回して柔軟・迅速に見直す)、という4つの考え方です。文章校正は低リスク、顧客向けメールは中リスク、採用・契約の判断は高リスク——というように、すべてのAIを同じように管理するのではなく、リスクに応じて対応を変える方向が示されています。
AI法・指針・ガイドラインの関係
AI法とは別に、企業が参考にしたいのが総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」です。AI開発者・提供者・利用者を対象に、企業がAIを開発・提供・利用するときの具体的な考え方を整理した文書で、2026年8月時点の最新版は第1.2版です。

関係を整理すると、AI法=法律→AI指針=AI法にもとづく適正利用の基本的な方向性→AI事業者ガイドライン=実務の具体的な考え方→企業ルール=自社の業務に落とし込んだ社内規程、という階層になります。重要なのは、法律・指針・ガイドライン・利用規約を混同しないことです。ガイドラインの詳細やガバナンス体制の作り方は、別記事で解説しています。
生成AIに関係する8つの法律
企業の生成AI利用で確認したい主な法律・ルールを8つ整理します。
著作権法
生成AIで特に問題になりやすい法律です。確認する場面は、入力→AI学習・処理→生成→利用の4段階。他人の著作物の入力は利用目的・方法によって検討が必要で、日本ではe-Gov法令検索「著作権法」第30条の4などにより情報解析目的の利用に一定の権利制限規定がありますが、創作的表現を享受する目的などでは適用されない可能性もあります。生成物についても、人による創作的寄与の程度で著作物性が変わり、既存著作物との類似性・依拠性が認められれば侵害となる可能性があります。文化庁も2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」(文化審議会著作権分科会法制度小委員会・令和6年3月)を取りまとめています。詳細は別記事で解説しています。
【関連記事】生成AIと著作権の関係とは?AI学習・生成物・商用利用の注意点をわかりやすく解説
個人情報保護法
氏名、住所、顧客情報、従業員情報などを入力する場合は、当初の利用目的との関係、AI提供会社側のデータの取り扱い(保存・学習利用・第三者提供・保存場所・削除方法)を確認する必要があります。個人情報保護委員会も、「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(個人情報保護委員会)で、生成AIサービスへ個人情報を含むプロンプトを入力する際の注意点を示しています。実務では、AIの処理に必要ない個人情報はそもそも渡さない(データ最小化)ことが基本です。渡してしまった情報が実際に外へ出る経路は、生成AIでの情報漏洩の原因と事例で確認できます。
不正競争防止法
顧客リスト、価格表、未公開の開発情報、ソースコードなどの営業秘密を無断で外部生成AIへ入力すると、営業秘密としての管理や、会社・取引先との秘密保持義務に影響する可能性があります。「AIが学習するか」だけでなく、「そもそも会社の秘密情報を第三者サービスへ送信してよいのか」を確認してください。
民法・損害賠償
生成AIによって問題が発生した場合、「AIがやったので責任者はいません」とはなりません。AI提供会社、導入した会社、利用した担当者などの関係に応じて、責任の所在を検討することになります。経済産業省も2026年4月に「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」(経済産業省・2026年4月9日公表)を公表し、AI利用時に損害が発生した場合の現行法上の考え方を整理しています。企業としては、誰がAIを導入し、誰が確認し、誰が最終判断するかを決めておくことが重要です。
契約・利用規約
法律だけでなく、AIサービス提供会社との契約も重要です。経済産業省は2025年2月に「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(経済産業省・2025年2月18日公表)を公表しています。入力データの権利と学習利用、生成物の利用条件、サービス水準、責任・補償、契約終了後のデータ削除などを確認してください。無料で使えるAIでも、利用規約は契約です。
広告・消費者保護
AIが作った広告だからといって、表示に関する法律の対象外にはなりません。AIが「顧客満足度No.1」と生成した文章を、根拠を確認せず広告掲載すれば問題になり得ます。AI生成の文章でも、事実か、根拠があるか、誤認させないかを企業が確認します。「AIが作った」は虚偽表示の免責理由になりません。
名誉・肖像・人格権
実在人物の顔をAIで改変する、本人が言っていない発言をAI動画にする、といった利用では、著作権だけでなく、名誉、プライバシー、肖像、パブリシティなどの問題が生じる可能性があります。特にディープフェイクには注意が必要です。「AI生成だから架空」とは限らず、実在人物を識別できる場合には別の権利問題が生じます。
業法・分野別規制
医療、金融、保険、採用、広告など、従来の業務に適用されていた法律は、AIを使ったから消えるわけではありません。AI特有のルール+その業務にもともと適用される法律の両方を見ることが重要です。
EU AI Actにも注意
海外事業を行う企業では、EUのAI規制「EU AI Act」も確認が必要です。欧州委員会「Regulatory framework on Artificial Intelligence(AI Act)」によると、EU AI Actは2024年8月に発効し、段階的に適用されています。2026年8月2日からは、透明性ルールなど多数の規定の適用・執行が始まっています。
EU AI Actは、AIの用途・リスクに応じて規制内容を変えるリスクベースの考え方を採用し、禁止AI、高リスクAI、生成AI等の透明性、汎用AIモデルなどについてルールを定めています。EU向けにサービス提供、AIシステム提供、採用・顧客評価などを行う企業は、日本法だけでなくEU規制も確認してください。
法律違反になりやすい8つのケース
実務でリスクが生じやすい利用パターンを整理します。以下の表にまとめます。
共通するのは、「入力してよいか」だけでなく「AIに何をさせるか」でリスクが変わることです。
企業が行うべき8つの対策
法律リスクを管理しながらAIを活用するための対策を8つ挙げます。
- AI利用を把握する: 誰が、どのAIを、何の業務で使っているか整理する。シャドーAIも含める
- 情報を分類する: 公開情報は利用可、社内情報は承認AIのみ、個人情報は条件付き、営業秘密は原則入力禁止、と分ける。この分類を文書に落とす手順は社内ガイドラインの作り方にある
- 利用AIを決める: 法人プラン、利用規約、学習利用、保存期間、セキュリティを確認して選ぶ
- 人による確認を入れる: 外部公開、顧客回答、契約、採用、重要判断ではAIだけで完結させない
- 著作権を確認する: 入力と出力の両方を見る
- 契約を確認する: AI提供会社との契約だけでなく、顧客との契約・NDA・業務委託契約も確認する
- ログを残す: 何を入力し、AIが何を出力し、誰が確認し、何を実行したかを必要に応じて記録する
- 定期的に更新する: 法律・ガイドライン・サービス規約・技術は変化する。ルールを作って終わりにしない
リスク別に管理する
すべての生成AI利用を法務確認にすると、活用が進まなくなります。以下の表にまとめます。
AI法にもとづく指針でも、リスクに応じて対応レベルを変える「リスクベース」の考え方が示されています。リスクが高い業務ほど、人と専門家の関与を厚くする。この原則で設計してください。誰が承認し、誰が責任を負うかという体制側の作り方は、AIガバナンスの構築手順にまとめています。
【プロの視点】「AIに何を聞いたか」だけで考えない
生成AIと法律というと、「ChatGPTへ入力していい情報」だけに注目しやすいものです。しかし現在のAIは、入力→回答だけではありません。AIがWebを見て、社内データを取得し、判断し、メールを作り、CRMを更新し、外部システムを操作するところまでできるようになっています。

そのため法務チェックも、「入力は合法か?」だけでなく、参照データは利用できるか→出力は権利侵害していないか→判断をAIへ任せてよいか→外部操作する権限はあるか→問題が起きたら誰が責任を持つか、まで見る必要があります。
つまり、生成AIの法律問題=プロンプトの問題、ではありません。「AIを組み込んだ業務フロー全体の問題」。この視点を持つことで、確認すべき法律とタイミングが明確になります。
【waltsu視点】人の承認の境界を決める
企業が法律リスクを恐れると、「ChatGPT禁止」というルールを作りやすくなります。しかし、全面禁止→社員が個人AIを利用→会社は利用状況を把握できない、というシャドーAIにつながる可能性もあります。重要なのは「AIを使っていいか?」という二択ではありません。

企業のAI利用は、法律だけでなく、利用規約、契約、社内ルール、倫理・ガバナンスの5つの層で確認します。「法律違反ではない」ことと「顧客・社会から見て適切」であることは別だからです。この「適切さ」を組織としてどう担保するかは、責任あるAIとして守る原則の側で整理しています。
そのうえで、STEP1=AIが文章案を作り人が確認する→STEP2=AIが社内データを分析し人が判断する→STEP3=AIが外部システムを操作し重要操作のみ人が承認する、というように、AIの自律性×法律リスクに応じて人を入れる場所を決めます。業務フローを入力→AI処理→参照データ→生成→判断→外部操作→人による確認→実行へ分解し、各工程で、個人情報は?著作権は?営業秘密は?契約上使える?誰が承認する?誰が責任を持つ?を確認するのです。
生成AIの法律対策とは、AI活用を止めることではありません。「どこまでならAIへ任せてよいかを明確にすること」。その境界が明確になれば、低リスク業務はAIへ任せ、人は重要判断・顧客対応・法的判断・最終承認へ集中できます。
生成AI法務チェックリスト
自社のAI利用を8分類で確認してください。
- AI: 会社が承認したAIか/利用規約を確認したか/入力データの扱いを確認したか
- 個人情報: 個人情報を入力するか/利用目的に合っているか/必要以上の情報を渡していないか
- 機密情報: 営業秘密・NDA対象情報・顧客秘密を含むか
- 著作権: 入力する権利があるか/既存作品と類似していないか/生成物の利用条件を確認したか
- 出力: 事実確認したか/差別的表現がないか/広告表示に問題がないか
- 判断: 個人へ重大な影響を与えるか/人が確認しているか
- 外部操作: メール送信・契約・支払い・データ変更をAIが行うか/人の承認があるか
- 責任: 最終責任者が決まっているか/問題発生時の対応が決まっているか
よくある質問
生成AIに関する法律はありますか?
あります。日本では2025年にAI法が成立・施行されました。ただし生成AIの利用では、AI法だけでなく、著作権法、個人情報保護法、不正競争防止法、民法、各業法なども関係します。
日本のAI法はいつから施行されていますか?
2025年6月4日に公布・一部施行され、2025年9月1日に全面施行されました。
AI法に違反すると罰金がありますか?
2026年8月時点の日本のAI法は、一般的なAI利用について包括的な罰則を課す構造ではありません。一方、個人情報保護法や著作権法など既存の法律に違反した場合は、それぞれの法律にもとづく責任が生じ得ます。
ChatGPTに個人情報を入力すると違法ですか?
一律に違法とは限りません。ただし、利用目的、AI提供者側のデータ利用、第三者提供、安全管理などを確認する必要があります。個人情報保護委員会も生成AIの利用に関する注意喚起を公表しています。
ChatGPTへ他人の記事を入力すると違法ですか?
一律には判断できません。著作物の利用目的や方法によって著作権法上の評価が異なります。特に、他人の創作的表現を再現する目的で利用する場合には注意が必要です。
AI生成物を商用利用できますか?
利用する生成AIサービスの規約と、第三者の著作権・商標等の双方を確認する必要があります。「サービス規約上使える」ことと「第三者の権利を侵害しない」ことは別の問題です。ChatGPTに絞った規約と権利関係は、生成物の権利と商用利用の線引きとして個別に整理しています。
AIが間違えた場合は誰の責任ですか?
AIそのものではなく、AI提供者、開発者、導入企業、利用者などの行為や契約関係に応じて、現行法上の責任を検討することになります。経済産業省も2026年にAI利用時の民事責任に関する手引きを公表しています。
EU AI Actは日本企業にも関係しますか?
EU市場へAIシステムやサービスを提供するなど、事業形態によって関係する可能性があります。EU AI Actは段階的に適用されており、2026年8月2日から透明性規定など多くのルールの適用・執行が始まっています。
まとめ
この記事の要点
・生成AIにはAI法だけでなく、著作権・個人情報・不競法・民法・契約・広告・業法が用途に応じて関係する
・日本のAI法(2025年全面施行)は禁止でなく「促進+適正利用」の推進法。指針はリスクベース
・法律→指針→ガイドライン→社内ルールの階層を混同しない
・対策の本質は「AI禁止」でなく、リスクに応じて「人の承認が必要な境界」を決めること
生成AIに関する法律は「AI法」一つではありません。企業が生成AIを利用するときは、AI法、著作権法、個人情報保護法、不正競争防止法、民法、契約、広告・消費者保護、業法などを、用途に応じて確認する必要があります。
2025年には日本でAI法が全面施行され、12月にはAI法にもとづくAI指針が策定されました。さらに2026年には、AI事業者ガイドライン第1.2版や、AI利用時の民事責任に関する手引きも公表されています。日本の現在のAI政策は、AIを全面禁止する方向ではなく、AI活用を促進しながら、リスクに応じて適切に管理するという考え方です。
だからこそ企業でも、何を入力する?→どのデータを参照する?→何を生成する?→誰に影響する?→AIが判断する?→外部操作する?→誰が確認する?→誰が責任を持つ?まで、業務フロー全体で確認することが重要です。低リスクはAIへ任せ、中リスクは人が確認し、高リスクは責任者・専門家が確認する。この境界を作ることが、生成AIを安全に活用する土台になります。waltsuでは、マーケティング業務を起点に、法務・リスクの観点を組み込んだ生成AI活用の業務設計とルールづくりをご支援しています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、法律相談ではありません。個別の判断が必要な場合は、弁護士などの専門家へご相談ください。
