・AIのリスクを網羅的に知りたい
・生成AIの利用が不安
・安全に活用を進めたい
ChatGPTをはじめとした生成AIの普及によって、文章作成、データ分析、マーケティング、営業、採用、意思決定支援など、さまざまな業務でAIが利用されるようになっています。一方で、「AIに会社情報を入力して大丈夫なのか」「AIの回答を信用していいのか」「AIが差別的な判断をする可能性はないのか」「AIエージェントに業務を任せても安全なのか」という新しい不安も生まれています。
先に、この記事の核となる考え方をお伝えします。重要なのは「AIは危険だから使わない」ことではありません。AIリスクは、発生する可能性×発生した場合の影響で考えます。そして、AIそのものが危険かどうかではなく、「どのAIを、何の業務で、どのように使うのか」によってリスクは変わります。何が起こり得るのかを理解し、どこまでAIへ任せ、どこで人が確認するのかを設計すること。これがAIリスク管理の本質です。
本記事では、企業が知っておくべきAIの10大リスク、リスクの評価方法、管理の7ステップ、参考になるガイドライン、チェックリストまで解説します。
この記事のゴール(読了目安 約12分)
AIの代表的なリスクを体系的に理解し、「発生可能性×影響度」で自社の用途を評価して、リスクに応じた管理レベルを設計できるようになる。
AIリスクとは

AIリスクとは、AIの開発・導入・利用によって、個人、企業、顧客、取引先、社会などに悪影響が生じる可能性を指します。米国NISTも、AIリスクを単なるセキュリティ問題ではなく、個人・組織・エコシステム(社会)へ生じる影響まで含めて捉え、リスクを「事象が発生する確率と、その結果の大きさを合わせて測るもの」——つまり発生する可能性×発生した場合の影響——と定義しています(NIST「AI Risk Management Framework(AI RMF 1.0)」)。
たとえば、AIが間違える確率が低くても、用途が医療診断なら、間違った場合の影響は非常に大きくなります。逆に、間違える確率が比較的高くても、用途が社内のアイデア出しなら、影響は小さいままです。
つまり、「このAIは安全か危険か」という問いには意味がありません。AI×データ×用途×権限×影響範囲でリスクを評価する。この視点が本記事全体を貫く軸になります。
AIの10大リスク一覧
企業で考えたい主なAIリスクを10種類に整理します。以下の表にまとめます。
重要なのは、すべてのAI利用で10種類すべてが同じレベルで発生するわけではないことです。用途ごとにリスクを評価します。
10のリスクを解説
それぞれのリスクと対策の方向性を解説します。
誤情報・ハルシネーション
生成AIは、存在しない論文、架空の企業、間違った法律、誤った統計など、もっともらしい誤情報を生成することがあります。AIの「この法律では○○は禁止されています」という回答を社員が確認せず顧客へ伝え、実際には内容が違った、となれば企業側の問題です。対策は、重要情報の一次情報確認、人による確認、信頼できる情報源へのグラウンディング、そしてAIの回答を「事実」でなく「候補」として扱うことです。
情報漏えい・プライバシー
顧客情報、営業秘密、契約情報、ソースコードなどの入力による情報管理上の問題です。ただし漏えい経路は直接入力だけではありません。AIが社内クラウドへアクセスし、機密資料を取得して回答に表示する、というケースも考えられます。対策は、入力可能情報の分類、承認済みAIの利用、アクセス権限の最小化、ログです。
セキュリティ
プロンプトインジェクション、学習・RAGデータの汚染、機密情報の抽出、AI生成コードの脆弱性など、AI特有の攻撃・脅威があります。特に、AIが読み込むWebページやメールに悪意ある命令を仕込む間接プロンプトインジェクションには注意が必要です。技術的な脅威と対策の詳細は、別記事で解説しています。
著作権・知的財産
入力(他社記事の全文入力など)と生成物(既存キャラクターに似た画像など)の両方で配慮が必要です。「AIだから自由に利用できる」とは考えないこと。判断の枠組みは、別記事で解説しています。
バイアス・差別
AIは「感情がないから公平」とは限りません。参照するデータに偏りがあれば、判断にも偏りが生じる可能性があります。過去の採用データに特定属性への偏りがあれば、AIも特定属性を高く評価しかねません。採用、人事評価、融資、審査、医療、価格設定では、AIだけで最終判断せず、結果を属性別に検証し、人による監督を入れます。
説明可能性・透明性
AIが「この顧客には契約を勧めません」と判断したとき、「なぜ?」に説明できない状態は、顧客・従業員・応募者へ影響する判断では問題になります。AI内部の仕組みをすべて説明する必要はありませんが、どんなデータを使ったか、AIを利用していること、判断基準、最終判断者を、用途に応じて説明できる状態を作ります。
AIへの過度な依存
「AIがそう言っているから正しい」と人間が判断してしまう、自動化バイアスです。AIが「この広告を停止すべき」と提案し、担当者が理由を確認せず停止する。AIの精度が上がるほど、人が確認しなくなるリスクにも注意が必要です。AI=分析・提案、人=確認・判断という役割を決めます。
法令・コンプライアンス
個人情報、著作権、業法、広告表示、契約、労働、消費者保護など、既存の法律はAI利用でも当然適用されます。AIが生成した広告コピーが虚偽表示だった場合、「AIが書きました」では免責されません。AI利用と既存の業務ルールを分断しないことが重要です。
ブランド・レピュテーション
法的に問題がなくても、「この会社のAI利用は不快」と顧客に思われる可能性があります。重大な相談でも人につながらない問い合わせ対応、不適切な表現を含むAI生成広告、応募者評価のAIへの丸投げ。AIリスクは法律違反だけでなく、「顧客からどう見えるか」まで含めて考えます。
AIエージェントの自律実行
今後特に重要になるリスクです。AIエージェントは、判断→ツール操作→業務実行まで行うため、AIが間違った場合、「誤回答」ではなく「誤操作」になります。OWASPも2025年12月に、自律型AIエージェント特有のリスクを整理した「Top 10 for Agentic Applications」を公開し、エージェント挙動の乗っ取り、ツールの悪用、ID・権限の悪用などを主要な脅威として挙げています(OWASP GenAI Security Project「OWASP Top 10 for Agentic Applications for 2026」)。対策は、最小権限、人による承認、実行ログ、緊急停止、低リスク業務からの段階的な自動化です。
リスクはツールでなく用途で変わる
同じChatGPTでも、用途によってリスクは大きく変わります。ブログタイトル案の作成なら低リスク。顧客情報の分析なら中〜高リスク。顧客を評価して自動で契約可否を判断するなら高リスクです。
そのため、「ChatGPTはOK、○○AIはNG」というツール単位の管理だけでは不十分です。AI×データ×用途×権限×影響範囲でリスクを評価してください。
リスクを3段階で分類する
すべてのAI利用に同じ管理を行う必要はありません。以下の表にまとめます。

リスクが高いほど、人による監督を厚くする。この原則で管理レベルを設計します。
AIリスクを管理する7ステップ
企業でのリスク管理の進め方を7ステップで解説します。

AI利用を把握する
何のAIを、どの部署が、何の業務で、どのデータで利用しているかを整理します。会社が把握していないシャドーAIの確認も含みます。
利用目的を確認する
「AIを使う」ではなく、何のために使うのかを明確にします。
リスクを洗い出す
情報、誤情報、著作権、公平性、セキュリティ、外部操作など、用途ごとに関係するリスクを洗い出します。
発生可能性と影響度を評価する
発生可能性(高・中・低)×影響(高・中・低)で整理し、優先的に管理すべきリスクを特定します。
人とAIの役割を決める
AI=整理・生成・分析・提案、人=目的設定・確認・重要判断・承認、という分担を業務ごとに決めます。
対策を実装する
アクセス制御、利用ルール、人による確認、ログ、モニタリング、教育を実装します。
継続的に見直す
利用→問題発見→評価→対策改善を繰り返します。NISTのAI RMFでも、このリスク管理をGovern・Map・Measure・Manageの4機能で継続的に回す考え方が示されています。
参考にしたいガイドライン
AIリスク管理の参考になる代表的な文書を3つ紹介します。
AI事業者ガイドライン
日本の総務省・経済産業省が公開する統一的指針で、最新版は第1.2版(2026年3月31日更新)です(総務省「AI事業者ガイドライン」掲載ページ)。安全性、公平性、プライバシー、セキュリティ、透明性、アカウンタビリティなどが整理されています。ガバナンス体制の作り方は、別記事で解説しています。
NIST AI RMF
米国NISTのAIリスク管理フレームワークです。AIリスクを個人・組織・エコシステム(社会)まで含めて管理する枠組みで、生成AI向けには「生成AIに固有の、または生成AIによって増幅されるリスク」を整理した「Generative AI Profile」(NIST AI 600-1/2024年7月公開)も出ています(NIST「AI RMF: Generative Artificial Intelligence Profile(NIST AI 600-1)」)。
OWASP GenAI
生成AI・LLM・AIエージェントの技術的なセキュリティリスクを整理しています。LLM向けTop 10の最新版「OWASP Top 10 for LLM Applications 2026」は2026年8月3日に公開されました(OWASP「OWASP GenAI LLM Top 10 2026」)。
※各文書は更新されるため、参照時は必ず最新版を確認してください。
よくある失敗
AIリスク管理でつまずきやすいパターンを5つ挙げます。
- AIを全面禁止する: 社員が個人AIを隠れて使うシャドーAIにつながる可能性がある
- 情報漏えいだけを見る: 誤情報・バイアス・著作権・過度な依存・外部操作まで見る
- すべてのAIを同じレベルで管理する: タイトル案と採用判断を同じ承認フローにすれば活用が止まる。リスク別に管理する
- ツール単位で管理する: 「何に使うか」まで見る
- ガイドラインを作って終わる: AI技術もリスクも変化する。定期的に見直す
【プロの視点】間違えたとき何が起きるか
AIリスクを考えるとき、「このAIの正答率は何%?」という話になりやすいものです。しかし、AIの精度だけではリスクを判断できません。
正答率90%のAIを社内アイデア出しに使う場合と、正答率99%のAIを顧客の契約可否判断に使う場合。精度は後者のほうが高くても、1%の間違いによる影響は後者のほうがはるかに大きい可能性があります。
つまり、AIリスク=AIが失敗する可能性×失敗したときの影響。だから、「どれくらい正確か」だけでなく、誰に影響するか、外部公開されるか、取り消せるか、人が確認できるか、金銭や権利に影響するかまで考えます。
AIリスク管理の目的は、AIを100%間違えないようにすることではありません。「間違えても重大事故にならない仕組みを作ること」です。
【waltsu視点】任せられる範囲を広げる
AIリスクというと、禁止、制限、承認の話になりやすいものです。しかし、リスク管理がないまま「危険だからAI禁止」という状態では、AI活用は進められません。逆に、どこまで安全かが分かれば、AIへ任せられる仕事を増やせます。

たとえば、STEP1ではAIが文章案を作り人が確認する。STEP2ではAIが顧客データを分析し人が判断する。STEP3ではAIがシステムを操作し、重要操作だけ人が承認する。このように、リスク管理と検証を重ねながら、自律性を段階的に高めていきます。
重要なのは「AI vs 人」ではありません。業務を、入力→AI処理→参照情報→生成→判断→外部操作→人による確認→実行へ分解する。そして各工程について、何が起きたら危険か、影響はどれくらいか、人が確認すべきか、AIだけで実行してよいかを決める。
AIリスク管理とは、AI活用のブレーキではなく、「どこまでなら安心してアクセルを踏めるかを決める仕組み」です。リスクを正しく管理することで、AIに任せられる業務範囲を広げ、人間が目的設定、顧客理解、重要判断、意思決定に集中できる状態を作ることが重要です。
AIリスクチェックリスト
自社のAI利用を、7分類で確認してください。
- 利用目的: 何のためにAIを使うか明確か/AIである必要があるか
- データ: 個人情報・機密情報を扱うか/入力権限は適切か
- AI出力: 誤った場合の影響は大きいか/人が確認できるか/一次情報を確認しているか
- 公平性: 個人を評価する用途か/特定属性に不利益がないか
- セキュリティ: 外部データを読み込むか/プロンプトインジェクション対策はあるか/最小権限になっているか
- 外部操作: メール送信・データ変更・購入決済を行うか/人の承認が必要か
- 組織: AI利用ルールがあるか/責任者が決まっているか/ログを残しているか/定期的に見直しているか
よくある質問
AIにはどんなリスクがありますか?
代表的には、誤情報、情報漏えい、セキュリティ、著作権、バイアス、説明可能性、AIへの過度な依存、法令、ブランド、AIエージェントの誤動作などがあります。
AIを使うと情報漏えいしますか?
必ず漏えいするわけではありません。ただし、個人情報や機密情報の入力、アクセス権限の設定ミス、AIエージェントなどを通じて、情報が意図せず利用・出力される可能性があります。
AIはなぜ間違えるのですか?
生成AIは、必ず正しい事実だけを検索して回答する仕組みではなく、文脈に応じてもっともらしい出力を生成するため、誤情報を生成する場合があります。
AIを企業で利用しても大丈夫ですか?
適切なリスク管理を行えば利用できます。重要なのは、利用目的、扱うデータ、人による確認、権限、利用ルールを決めることです。
AIの最大のリスクは何ですか?
用途によって異なるため、一つに決めることはできません。重要なのは、発生可能性と起きた場合の影響から、自社にとって重大なリスクを特定することです。
生成AIと従来のAIでリスクは違いますか?
共通するリスクもありますが、生成AIではハルシネーション、プロンプトインジェクション、機密情報の出力などが問題になりやすくなります。NISTも生成AI特有または生成AIによって増幅されるリスクを整理した資料を公開しています。
AIエージェントにはどんなリスクがありますか?
AIエージェントは判断→ツール操作→外部実行まで行うため、過剰な権限、誤操作、意図しない行動、外部攻撃による操作などが重要になります。
AIリスク管理は何から始めればいいですか?
AI利用を把握する→用途を整理する→扱うデータを確認する→リスクを評価する→人とAIの役割を決める→対策する→継続的に見直す、という順番で進めてください。
まとめ
この記事の要点
・AIリスク=発生可能性×影響度。「AIが危険か」でなく「用途で何が起きるか」で考える
・10大リスクは、誤情報・漏えい・セキュリティ・著作権・バイアス・説明・依存・法令・ブランド・自律実行
・用途を低中高の3段階に分類し、リスクが高いほど人の監督を厚くする
・リスク管理はブレーキでなく、「安心してアクセルを踏める範囲を決める仕組み」
AIには、誤情報から自律実行まで、さまざまなリスクがあります。しかし、「リスクがあるからAIを使わない」という考え方では、AI活用によるメリットも得られません。重要なのは、AIが危険か安全かではなく、「どのAIを、どの業務へ、どこまで使うのか」。用途によって管理レベルを変え、発生可能性×影響度で評価し、間違えても重大事故にならない仕組みを作ることです。
これからAIエージェントが普及すると、リスク管理も「何を入力していいか」から「AIにどこまで行動させていいか」へ変わっていきます。AI活用とリスク管理を対立させず、安全にAI活用を拡大する仕組みを作る。まずは本記事のチェックリストで、自社のAI利用を一度棚卸ししてみてください。waltsuでは、マーケティング業務を起点に、リスクに応じたAI活用の業務設計とルールづくりをご支援しています。
